荷物とじいさんと私

暮れも押し迫ったこの時期。何かと慌ただしい中、私はある宅配業者(特にその一従業員)によってこれまでの人生で最もあたふたさせられるという経験をした。その一部始終を思い出せる限り記し、今年の〆としたい。

2003年11月下旬:じいさんとの出会い

部屋の片付けの一環で、組み立て家具を通販で購入した。特に配達日や時間帯などの指定はしていなかったのだが、宅配業者はどうやらある休日の昼頃配達に来たらしい。でもこちらは寝ていたもんで気がつかず、不在連絡票のみが置かれていた。

不在連絡票を受けた私は早速宅配業者に連絡、同日の夕方に再配達を依頼した。宅配屋さんといえばたいがい、荷物の大小に関わらずトラックで来るので、ウチの近くまで来ると車の音で来たのがわかる。その日の夕方、耳をひそめて待っていると(こう書くととてもヒマそうだが一応片付けとかしてた)、車の音が‥‥したんだけどどうもトラックではない。窓から見てみると確かに乗用車だ。なんだ宅配屋さんじゃないのか‥と諦めていたら宅配業者だった。

玄関に出てみるとそこには見慣れない作業服を着たおじいさんが手ブラで立っていた。大手の宅配業者なので、みんな決まった制服を着てると思ってたんだけど、例外もあるんだなぁ〜ところで荷物は?と思ってたら、
「先ほど伺ったんですけどね、どうもお休み中だったみたいで」
じいさん、確かに寝てて出なかったのは悪かったと思うが、そうとわかっても言わないのが礼儀ってもんだろう。そりゃそうと荷物はどうしたの、という顔で見ていると、下(ウチは2Fなので)に取りに行った。さっきの乗用車から結構重いその荷物をおろし、宅配業者らしく肩にかついでもってきた。

じいさんはそれで用事が済んだので帰っていった。まぁお茶でも飲んでのんびりされても困るが。で、さて荷物も受け取ったしゲーセンでも行くかな〜なんて思っていたら、さっきのじいさんがまたやって来た。
「すみません、荷物がもうひとつありました」
その荷物は通販のカタログであった。これは購入したものではないし、通販会社から半ば一方的に送られてくるものなので、まぁ遅れても何とも思わない。が、じいさん二度手間になっちゃったねと、この時は笑い話で済んでいた。

どうやらこの宅配業者のウチ近辺担当は、最近このじいさんになったらしい。上の一件があった数日後、ウチの近所を荷物を微妙に載せたあの乗用車でウロウロしているのを何度か目撃した。その何度かっていうのが、同じ日の異なる時間帯に、何故か同じ場所で数回見かけたんだけど‥じいさん、道に迷ってるのだろうか。

じいさんの謎の挙動はともかく、長引く不況で失業率がなかなか下がらない今、こうやって年配の方を雇用してるなんてあの宅配業者もがんばってるんだなぁ、などと、この時は呑気に考えていた。

2003年12月19日:じいさんとすれ違い

この日、通販で購入した以下の商品が届く予定だった。

プレイステーション2専用メモリーカード Premium Series 太鼓の達人
注文先 通販サイトA(仮称)
注文日 2003/11/20
配達予定日時 2003/12/19 14時-16時

一ヶ月も前から予約してたのは、なんとなくこの手の商品は店頭に数がそろわない気がしたからだ。実際、頭文字Dのメモリーカードも発売日に探すのに苦労した。そんな経験から、私はあらかじめ通販サイトで予約することが多い。

で、注文した通販サイトA(仮称)は決まった宅配業者を利用して荷物を送ってくる。そう、あのじいさんの宅配業者だ。一抹の不安がよぎるが、まぁそんなに急いでいるものでもない(でもPS2のメモリーカードがちょっと足りず、欲しいことは欲しい)ので特に気にせず会社から帰宅‥‥荷物は届いていない。時間帯指定した14時-16時、かみさんは用があって留守であった。それならそれで不在連絡票があってもよさそうだが、何もない。配達に来たのかどうかもわからないが、その宅配業者のWebサイトの荷物追跡サービスで調べてみると、とりあえず最寄りの営業所は出発してるということになっているので、来たことは来たんだろう。でも何も置いていかないのはいかがなものか。

気の短い人ならここで既にクレーム爆弾炸裂なのかもしれないが、私には思うところがあり、この件はそのまま放置した。その思うところというのが次項であるのだが、この時放置しなければ‥

2003年12月20日〜21日:じいさん、荷物を配達せず

Music CD: BATTLE GEAR III The Edge , BATTLE GEAR - THE DISCOVERY OF ROADS -
注文先 通販サイトB(仮称)
注文日 2003/12/07
配達予定日時 2003/12/20 時間帯指定なし

12/17発売のBG3サントラCDも通販で予約していた。これにはそれなりの理由がある。まず、CDはたいがいフライングで前日に買えたりする。しかしこの場合、前日の16日はBG3 Tunedの全国一斉稼働日である。きっと当日はCD屋へ行く時間も惜しんでゲーセンに直行したいに違いないし、正規の発売日である翌日もそうだろう(実際そうだった)。ということで、通販で届けさせることにした。通販サイトB(仮称)を選んだのは、前作である BATTLE GEAR - THE DISCOVERY OF ROADS - も商品リストに載っていたからであり、一緒に注文した。残念ながらそちらはメーカー在庫切れでキャンセルとなったのだが。

さて、CDの発売日になったはいいけど通販サイトB(仮称)の注文履歴を見ても一向に発送されない。結果2日後の19日に発送されたようだ。まぁ1日2日ならいいけれど、なんで遅れるんだろう。謎である。気の短い人ならここでまたもやクレーム爆弾連続投下かもしれないが、私はここではあまり不満に思わなかったので何もしない。

結果として19日発送=20日ウチに配達、ということになったのが19日のうちに判明していた。前の項の「思うところ」というのはこのことで、じいさんは「よく寝てるここんち、明日も荷物があるみたいだし、明日まとめてもっていこう」としているのではないかと思ったのである。まとめてもってきてくれたほうがこちらも助かるし。

だが、それは間違いだった。いやまとめて持って来たのは間違いではない。しかし20日は、私もかみさんも朝から留守(寝てたのではなく留守)で、しかも私は泊まりで翌日の21日までいない。荷物についてはかみさんに一任して出かけた。じいさんは例によって20日の昼頃来たらしく、そして今度は不在連絡票を置いていった。その不在連絡票には「通販サイトA様、通販サイトB様からのお荷物を‥」と二つの荷物を一枚にまとめて記述しており、やっぱりまとめて持ってきていたのがわかる。かみさんはその不在連絡票を処理し、更に翌日の21日に荷物を受け取った。しかし荷物はメモリーカード一つのみだったのだ。CDを楽しみに旅行から帰ってきたのに、なんか片っぽ届いていない。

不審に思い、処理済みのはずの不在連絡票をよく見てみた。すると、「通販サイトA様、通販サイトB様からのお荷物を‥」と二つ荷物があることはわかるのだが、問い合わせ番号が一つだけ(メモリーカードのほう)しか書かれていないのである。それで問い合わせたのでそっちしか届かなかった、と予想される。が、不在連絡票を中途半端に一枚にまとめたのもじいさんなら、結局一つしか持ってこなかったのもじいさんだ。じいさん、またボケやがったよ!

2003年12月22日〜24日:じいさん、ついに荷物をなくす

‥と、このときはまだ笑っていたのだが、翌日の22日になってもあらためて配達される気配がない。これはひょっとしてまずい状況なのか‥嫌な予感がして、あらためて宅配業者に連絡してみた。最初に受け付けたのは女性だったが、数時間後折り返し電話をかけてよこしたのは若い男性だった。
「手前共で探したのですが、どうも手前共のところには見あたらず、手前共は‥」
やたらと手前共な若人であるが、要約すると未配達のCDは見つからないらしい。その日は、あらためて翌日連絡するということで一旦電話をきった。

翌日の23日。きのうの手前共の若人からついに衝撃の連絡が入った。また手前共手前共と言っていたが、一言で言えば、
「探してもなかった、なくした」
私はすごい言葉を聞いてしまった。なくなっちゃったのかい。これ、気が短くない人でも立派にクレーム対象だ。私の人生ではじめて、クレームという行動をとるのかなあ〜。なんて思っていたら相手が先手を打ってきた。手前共が紛失したCDを購入して届けるというのである。

実はこの前日、気になって新宿あたりのCD屋で BATTLE GEAR III The Edge を探してみた。しかし店頭在庫はどこにもなかった。そうこの手のマイナーなゲームミュージックは数が出ない。だから買うべき人が買っちゃったら店頭在庫がないのが普通だ。それを見越しての通販予約でもあった。てな実状を知ってる上で、「よろしくお願いします」とその若人に店頭をまわらせることにしてみた。我ながら意地悪だが、これがなくされたことへのささやかな反抗?なんつって。ただ、CDのタイトルを向こうに伝えるのがはずかしかった。「ラトル‥ビアス?ですか?」とか言ってたし。

その日はそのまま若人の連絡を待とうと思ったが、せっかく休みなのでパスネットを買いに八王子方面へ出かけた。若人には私の携帯電話に連絡を入れるようにしておいた。鉄用事も済み、そろそろ帰るか、と八王子駅前を歩いていると、例の若人から電話がかかってきた。
「手前共で何軒かまわってみたんですけれども、どうも手前共ではみつからず、注文してきました」
そりゃそうだろうなぁと思いつつ、とりあえずその場ではその注文とやらの経過を待つように指示し電話をきった。しかし予想できたこととはいえ、これではいつになってもCDが聴けない。最悪発売日に聴けなくてもいいかなとは思っていたけど、結構楽しみにしていたタイトルである。もう既に一週間近くも待たされており、我慢の限界でもあった。という訳で、とりあえず目の前にあるヨドバシカメラ八王子店のCD売り場に行ったら‥2枚あった。さすが八王子だ!という訳で速攻購入。

遠回りしてようやく聴くことができたCD。しかし荷物紛失事件は解決していない。さてどうすっかな〜と思っていたら、翌日の24日に向こうから連絡が入った。注文はしたもののCD屋の倉庫にも在庫はなく、メーカーに注文するので一週間くらいかかってしまうとのこと。
「楽しみに待たれてたお荷物でしょうところ、手前共の不手際でぇ‥」
もとはと言えばじいさんがなくした荷物、その尻拭いをさせられている手前共な若人が真に気の毒になってきた。それはそうと、もうCDは買えちゃったので、注文を待っているのも無駄なことだ。という訳で、CDの代金を現金で支払ってもらうということにした。向こうは大変恐縮していたが、そのほうが楽そうだった。この件はそれで一応の解決を見たが、運悪くこことのつながりは断たれない。私はいつにない強い口調で彼に伝えた。
「こんなことがあった時になんなんですけど、明日も荷物があるんですよ。今度のは初回限定版っていって、なくしたりしたら買い直しや現金支払いじゃきかないんです。お願いですから今回のようなことのないようにしてくださいね」
なんか子供をおつかいにいかせる時みたいなことを言ってるなぁ、と、あとで苦笑してしまった。

2003年12月25日:じいさん、ではなかったが

PS2: バトルギア3 初回限定版
注文先 通販サイトA(仮称)
注文日 2003/11/27
配達予定日時 2003/12/25 16時-18時

これについてはもう、スケルトン青鍵つきの初回限定版を逃したくない一心での予約である。予約した時はこんなことになるとは想像もせず、いつも利用している通販サイトA(仮称)を利用したが、こう強烈なトラブルがあった直後では信用しろというほうが無理だ。せめて宅配業者を変えてもらえないだろうかといろいろ調べてみたが、昨日の今日でそんな手続きはできそうにない。そう言ってる間に発送手続き完了となってしまった。もちろん、あのじいさんの宅配業者を利用だ。

とはいえ昨日あれだけキツく注意したし、それこそ昨日の今日だから敏感に対処してくれるだろう。これで荷物も最後だ、今回は何事もなく届いてくれよ‥と会社に出て仕事していると、通販サイトA(仮称)からメールが届いた。

件名:「商品のお届け遅れ」のお詫びとお知らせ
‥(中略)‥
さて、『12月25日(木)お届け分の一部のご注文』に関しまして、物流事情に
より商品のお届けがご指定いただいている時間帯より遅れる可能性があること
が判明いたしました。お客様には、大変ご迷惑をお掛けしますことを心よりお
詫び申し上げます。

早急にお届けできるよう最善を尽くしておりますので、今しばらくお待ちいた
だけますようお願い申し上げます。

天中殺だ。言ってみれば「じいさん天中殺」(なんだそりゃ)。今回もまた何事もなく済みそうもない。

そうはいっても、仕事的にはもう今年も実質今日1日しかないような日であるため、荷物のことを必死に忘れ仕事をする。夕方、ようやく一段落したので、例の荷物追跡サービスを見てみた。
「2003年12月25日 17:26 ご不在でしたので、お預りしております。」
いかーん!不在持ち帰り=紛失という等式ができたてホヤホヤの私には、あってはならない事態発生!即座にかみさんに連絡を入れると、「宅配業者(おそらく配達している人)から電話があって、出かけるので21時頃再配達してくれと頼んだ」とのこと。どうやらそれを受けてのご不在・お預りらしい。

一旦は安心したものの、予断の許さぬ状態にかわりはない。一番大事な「その電話の主はじいさんなの!?」を聞くのを忘れたのも、慌てふためく要因だった。終業後、もう電車の中でも走りたいくらいの勢いで帰宅。この日、ゲーセンに最近会ってない友人が来ているとの知らせが入っていたが、こんな事態なので顔出せないと、面会は断ってしまった。それもこれも、みんなじいさんのせいだよも〜。

21:30過ぎに帰宅も、やはり荷物は届いていない。ただ届いてないだけならともかく、なくしてないだろうなぁオイ‥と、夕食もロクに喉を通らない。と、待望の電話がかかってきた!電話の主は夕方と同じ、配達している人からだ。じいさんではなかった。心底ホッとした。
「この時期配達物が立て込んでおりまして、申し訳ないのですが今日中の配達は無理です。明日配達という訳には‥」
通販サイトからきたメールにもあった「物流事情」、この時期クリスマスやお歳暮シーズンで宅配業者はなかなか忙しいらしい。それでこのようになってしまったようなのだが、一旦は21時で了承した訳だし、配達できませんはどうだろう。たぶん、いかな気の長い人でも、こうトラブルが相次いだら鬼の形相で「店長呼べ」沙汰ではなかろうか。でも私は怒りより先に荷物を心配していた。翌日はまた二人とも留守だし、何より一旦持ち帰られたらスーッと消えてなくなる‥そんな妄想ばかりが脳をかけめぐる。

でどうしたかというと、営業所までとりにいくから置いておけ、と指示した。向こうは大変恐縮していたが、またもやそのほうが楽そうだった。直後私は自分の車でちょっと遠い営業所まで赴き、無事荷物を受け取った。窓口に出てきた青年は、私がここ数日とんでもない被害を被っているとはつゆ知らず、「荷物をとりにきたんですけど‥」「あ、そうっスか」と軽〜く流されてしまった。もうブチ切れてもいいんじゃないのと、これを読みながらブチきれてる読者がいたらゴメンなさい。それより荷物だったんです。

あそうそう、という訳で荷物は無事だったんだけど、25日の一件は通してじいさんの姿はなかった。

◆◆◆

以上がここ数日で起きた宅配屋のじいさんにまつわる事件である。一番衝撃なのは荷物紛失だろう。ここで一時期話題になったクレーマーよろしく、その宅配業者に苦言を放ちまくるのも自然の流れかもしれない。しかし私は、上のようにあまり文句を言わず、ただあたふたしている。今回の件で、そんなお人好しな自分の性格をあらためて省みた。

起こったことに対して、引け目に思ってしまう結果強く言えないことと思ってしまっているからかもしれない。昼間だというのに寝てて起きず、結果不在扱いにしてしまうことが多いとか、なくなった荷物も、高値でもなく名前を言うのもためらわれるオタク商品である。それでクレーム言えるのか? と思いつつも、商品が何であれ荷物を紛失したということは重大な過失であり、そこはハッキリ怒らなければいけないし、それが相手のためでもなかろうか、とも思ったり。

父が生前、よく近所の忠実屋の店長を自宅に呼んでは2〜3時間説教をしていたことがあった。些細なことでもだめなことはキッチリ叱っていた。それは私が子供の頃のことだが、今回の一連の流れの中で、いつもその光景が頭に浮かんでいた。こういう時、本当はそうしなければいけないのかなと。

優しすぎる、人が好すぎるのも、結果自分が損をするばかりである。このあとまた同様のことが起こらないようにするためにも、頑固親父にならなければいけないんだなぁ。

まぁ、それはそれとして、じいさんがじいさんなのも強く怒れない理由なのよ。年寄りは叱りづらいよ!今回、最後にはじいさんついに登場しなかったけど、クビになっちゃったのかなぁ。あんだけイライラしときながら、いざいなくなると寂しいもんである。といって、以前のまま復帰されてもやっぱり困るけどね。じいさんでも仕事は仕事。荷物はなくしちゃいけないよ。

〆といっていいのかどうかよくわからない、年末のゴタゴタであったが、自分としてはなんとなく来年の抱負ができたような、そんな出来事だった。じいさんよ永遠なれ。願わくば、別の地域の担当になってくれるといいんだけど(笑)。